3.呪術性から美術性へ                                       
                                                                                                
 制作年代は一般に正確には判らないのですが,ここにご紹介し
ている木彫に関しては、造形や彫り(タッチ)などからA、B
グループ、E、Fのグループ、G、H、Iのグループと古い順 
に三つのグループに分けることはできるように思われます。
 G、H、Iは比較的新しい作品で、IはFと同系統、HはCと同系
統の造形ですが、顔立ちの近代化がはっきりと見て取れます
し、身体全体のフォルムもA、B、Cに比べるとかなりスマートに
なっていることがわかります。A、B、Cが彫られた時代には、恐
らくあまり切れ味の良くない工具で、堅い木を毎日少しずつ丹念
に彫り進めたものと思われ、ゴツゴツとしたタッチが彫り師の苦
労を偲ばせますが、それだけひとつひとつの彫像からは彫り師
の思いや精霊のイメージが生き生きと伝わってくるようです。D、
E、F も彫り師の感性に基本的な変化は見られないように思わ
れますが、全体の造形に洗練度の向上が感じられます。20世
紀以降、他の部族や西欧人との接触が増大するにつれて鋭利
な刃物や工具も流入したであろうことは容易に想像できます
が、それを使用することで彫り師の技も上がったのかもしれませ
ん。
                                                                   
           I: h. 125cm  G、H、Iにはその傾向がより強く現れており、技術の向上と外部からの文化の
流入に伴って彫り師たちの感性には、彫像のうしろに潜む精霊のような呪術的
な存在への関心だけではなく、彫像自体の美術的な仕上げへの関心も以前よ
りも大きな位置を占め始めているのではないかと感じさせるものがあります。
                                                                                      
 
 J : h. 53cm K: h. 47cm   L: h. 34cm M: h. 34cm
 
  しかし、それがムムイェの現代の彫り師たちに共通する傾向なのか、それともたまたまこのG、H、Iの作
者だけに現われた変化なのかは、比較できる作品があまりにも少ないので判りません。 ただ、ムムイェの
彫り師たちがこれからも彫り続けるとしても、工具や技巧と感性の観点からA、B、Cのような素朴なタッチの
作品はもう彫られることはないと思われますし、D、E、Fのような作品でさえどうでしょうか。工具と感性の近
代化が美術にもたらす変化の実例の一つとして見守って行く価値があると思います。  
  なお、ここでご紹介した作品は個人的コレクションで、商品ではありませんが、写真は自由にご利用頂い
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